音楽活動をする中でストリートライブを経験した人も多いと思います。「道路の通行の邪魔はしないし、不快感を伴うような騒音を出しているわけでもない。私が行なっているのは立派な表現活動である。」と主張する演奏者も多いと思います。
実際、筆者も電車に乗ろうと向かう駅構内までの道端で、ついつい足を止めて聞き入ってしまうような見事な演奏をきくこともしばしばあり、そこには多くのファンが集まっている事も少なくありません。
そのようなファン達に囲まれ、演奏もいよいよノリに乗って盛り上がって来たところで、多くの場合は警察官が現れて「演奏の停止」を求められたりします。本人はもとより、観衆達もガッカリかもしれません。
一般的に警察や行政の行う規制は「公共目的の実現」という根拠がありますが、「公共目的」というのならば、この警察の行なった行為の方が、一見不当なもののように感じられます。
なにせ、多くの人達の幸せがたった一人の公務員によって失われてしまったのですから・・・
しかし、実際はこの演奏者やファンよりも、「やかましい」と思いながら去っていく人や「どうでもいい」という無関心な通行人の方が多いでしょうし、客観的な視点で考えれば、警察官を批判することはできません。前置きが長くなりましたが、ここではストリートライブの違法性について検討します。
さて、さきほどの例。警告を受けた演奏者側が、警察官による演奏の制止行為を無視して演奏を続けることはできるのでしょうか。
難しい話になりますが、法律上で公務員の行う強制は恣意的なものが許されず、必ず法律の根拠が必要です。
そこで、まずは警察官が職務を行うことにつき、どのような法律根拠が存在するかを警察法から考えます。
警察法第2条には「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。」と規定されています。さらに
昭和55年9月22日に警察官が、飲酒運転の多発地帯である場所で交通違反取締りを目的とする自動車検問を行ったことが違法かどうかを争われた裁判がありますが、これによると「@交通の安全及び 交通秩序の維持などに必要な警察の諸活動は、強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容される」 「Aしかし、国民の権利、自由の干渉に わたるおそれのある事項にかかわる場合には、任意手段によるからといって無制限に許されるべきものでない」 「B相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法なものと解すべき」という判決が下されています。
このことから、あくまで警察官の制止行為は「行政指導」に止まり、強制力はないので、演奏者はこれに任意に従うことが求められるにすぎず、演奏行為をストップしなくても構わないと考えられます。
演奏行為をストップする必要はないというのは、あくまで警察の制止行為に強制力はないというにすぎず、ストリートライブ自体が適法かどうかハッキリしていません。そこで、ストリートライブを行う場所に焦点を当てて検討してみます。
まず、法律にどのような演奏を規制する根拠が存在するか探るために、音楽活動がさかんな地域のあるT警察署に対して、野外ライブに対する指導・勧告には何を根拠として行なわれているかのヒアリング調査を実施してみました。
それによると「ストリートライブについては、駅前でなされるような個人レベルのものなどは特別な事情がない限り、許可を出すことは認められない。イベントなど事情がある場合は、例外的に道路交通法77条2項3号により、許可を出して演奏を認めている。これはパフォーマンスに限らず、路上販売、路上演説においても同様である(筆者要約)。」という回答を得ました。
つまり、ストリートライブに対する制限の背後には、道路交通法77条2項というのが共通の認識であるようです。
そこで、さらにO阪のM警察署、O警察本部、当事務所付近を巡回中だったO巡査にいたるまで、確認した所、ストリートライブには同じく77条による許可制度の存在が挙げられました。
そして「(我々警察が)指導すればたいてい、演奏行為を止める(もっとも許可を申請しても前述のとおり、ほぼ通らないのだが)それでも従わずに、なおも演奏を続けたケースは見たことがない。万一そのような場合でも即刻逮捕するようなことはなく、現場での調査を経て後日の可罰となるし、最終的には現場での指導として、別の公園や河川などで練習しなさいということになる(筆者要約)」ということまで確認できました。
これらをまとめると、イベント主催者であれば、道路交通法77条による「事前許可」を取得すれば問題なく演奏行為を行うことができ、通常駅前や道端でなされる演奏の場合、上記の「事前許可」を取っていないことに対しての指導・勧告が行なわれているという理屈になります。
【道路交通法第77条】 |
道路交通法の第77条2項を見ると、大規模な音楽イベントにおいては著しく一号にあたりますし、ニ号の適用も難しいと考えられるますので、三号によって許可が通っていると考えられます。
それは納得ですが、しかし警察官の制止行為はあくまで道路交通法77条を前提とした強制力のない「行政指導」に該当するのですから、迷惑行為を制止する明確な根拠となるとは言い難いのです。
と言うのも、そもそもこの法律を用いて強制的に演奏を制限することが本当に可能ならば、憲法における21条「表現の自由の保障」との衝突が生まれるからです。
例えばとある裁判例(最昭29・11・24)で 表現行為に対して行政が規制をかけようとするとしても、明確な基準に該当する場合は認められるが、これを満たさないときは「実質申請さえすれば認められる」というものがあります。
先に述べた警察署の提言する「公益上など、特別な事情がない限り、許可を出すことはしていない」と考えているわけですから、これは「表現の自由」との兼ね合いで問題が発生しているのです。
なお、道路交通法 77 条 1 項四号と表現の自由の衝突について争われた裁判例(最昭57・11・16)では「道交法の規定は、集団行動に対する必要かつ合理的な制限として憲法上是認される。」として、集団行動を不許可とする場合を厳格に制限して、合理的で必要な場合を除いて、警察署長は許可しなければならないとしています。これは集団行動に対する危険の予知の場合でこうですから、騒音や多少の通行障害にとどまる野外ライブにおいてはもっと許可が下りないないとならないはずなのです(逆に言えば、もろ車道上で無許可ライブをして観客を集めることが交通の妨げになれば、即刻、道路交通法第119条第1項によって刑罰が科される可能性があります。エルビス・コステロなど、前例もあります)。
以上から筆者的には、人が少し通るレベルの道端におけるストリートライブというのは、道路交通法上、違法というには根拠が弱すぎるように思います。また、公道ではない鉄道会社所有地である駅前の場合、鉄道会社を差し置いて警察が介入することには違和感を覚えます(民事不介入)。
とはいえ、現在において音楽活動と道路交通法を争った事例はなく、実際は警察署の回答を参考に駅前・道路においての演奏においては警察の指導があれば、素直に従う方が無難なのですが(汗)。
※なお、都道府県によっては道路交通法に関する細則や、条例等で拡声器等を用いた騒音や人寄せをする演奏自体を禁止していることもありますので、ご注意ください。