当事務所でアーティスト等のみなさんからご相談を受けていて、意外とよく聞かれるのは、「事務所を名乗る」ということと、「社長になる」ということの違いです。
我々のような仕事をしていると、ついつい忘れがちなのですが、確かに一般的な認識で「会社を経営する」ことと、個人で事業することの違いについて、詳しい方は少ないように思います。
特にアーティストなど、クリエイティブなお仕事をされている場合、基本的に「フリーランス」な方がほとんどです。我々の中では「個人事業主」とカテゴライズするわけですが、厳密に言うと税務署に「開業届」を出している方を「個人事業主」と考えますので、フリーランスという立場は、実は非常に不安定で曖昧な立場です。
さて、ここで「では、自分達で事務所を立ち上げればいい!」という話になるかもしれませんが、「事務所を立ち上げる」には「個人事業主になる」ために開業届を出せばいいのか、「会社を作る」のがいいのか、わかりません。
というより、そもそも会社ってどんな種類があって、個人事業主と、どう違うのか、わからないかもしれません。
基本に立ち返って考えますと、「事務所」というのは「事業経営をするための事務をするスペース」にすぎません。どうも音楽業界などで「事務所に所属する」とか「事務所のOKが出ない」などと表現するために、誤解が生じますが、ようは「事業者」や「会社」と置き換えて読めばしっくりきます。
つまり、「事務所を立ち上げる=事業を開始する」ということです。この事業とはすなわち「個人事業主」になるか、「会社を設立する」ということですから、必ずしも会社を設立しなくても「事務所を立ち上げる」という目的は達成できます。
ようは、事業をするということは何か、どのような形態でやるのが自分にあっているのかを考えればよいのです。
はっきり言ってしまうと会社を設立すると、いろいろな制約や手続きが必要となるため、アーティストや創作活動に専念したい方にとっては、煩わしいと思います。
対して「個人事業主」になることは、税務署に「開業届」を出すだけですので、非常に簡単です。もちろん毎年の確定申告が必要ですが、これは給与取得者でないかぎり、必ず必要ですので、仕方のないことです。
しかも、個人事業主の確定申告は、お小遣い帳と同じようなもの(白色申告)ですので、さほど恐れることもありません。軌道にのれば、会社のように従業員を雇ったり、社会保険に加入することも可能です。
いいことづくめのように思えますが、デメリットもあります。まず、多くの場合で取引先(会社や行政)は会社などの法人でなければ相手にしてくれません。さらに銀行口座なども個人名になりますし、いずれにしても信用の点が大きなマイナスです。
もっと言えば、JASRAC等で著作権管理を委託する際に、個人の場合は、会社に比べて個別的な契約ができないなどのデメリットも生じます。
では、会社を作ることのメリットとは何でしょうか?
よく言われるのが、会社の方が「@信用が大きい」「A節税ができる」「B事業に失敗した時のリスクが低い」などが挙げられます。
「@信用が大きい」は、さきほども少し触れましたが、どうしても取引をする上で個人では相手にしてもらえないケースは多く、個人事業者はこの点に苦労します。また、事業を行ううえで会社でないと許可を得られない事業もありますし、先に述べたような著作権管理の契約ができない等もあります。
「A節税ができる」については、個人事業主はあくまで「事業=自分」となりますが、会社の場合「事業=会社」となりますので、自分は会社に雇用されている立場です。このことから、自分が自由に使うお金(給与)は、当然会社の経費となります。
さらに社長(自分)の生命保険料や、福利厚生費などもすべて経費にできます。
単純に個人事業の場合と会社の場合の課税額の違いなどもありますが、目安としては自身の年収が「500万円あたりを超えた頃」が、会社を作ることで節税効果を受けられるラインと言われています。
余談ですが、既婚者の場合、配偶者もあわせて二人分の国民年金を払うので、同じくらいの負担で厚生年金に切り替えられるメリットもあります。
「B事業に失敗した時のリスクが低い」は、当初から考えておく必要はない話ですが、取引等を行う場合「個人事業者」は自分自身が契約の主体ですが、会社の場合、あくまで契約の主体は「会社」です。
つまり、なんらかの事情で倒産するような事があっても、自分自身がその債務を負うことはなく、最初に投資した資本金を失うだけで被害は済みます。
ただし、会社と同時に自身が連帯債務者になった場合や、作る会社の種類によっては。この例にあたらない場合もありますので、注意が必要です。
会社と一口に言っても様々な違いがあります。一番有名なのは「株式会社」だと思います。
次はおそらく「有限会社」ですが、こちらは法改正により作ることができなくなりました。
株式会社以外では「合同会社」「合名会社」「合名会社」があります。大きな違いは、さきほど述べたように、「@会社の債務等を自分自身(代表者)が負うか否か」、他には「A社員の権限」、「B会社の資本金に関する扱いがどのようなものか」という点です。なお、社員というのは「会社員」のことではなく、出資者のことを言います(会社員のことは「雇用者」と呼びます)。
株式会社 |
合同会社 |
合資会社 |
合名会社 |
|
出資者の数 | 一人以上 |
一人以上 |
二人以上 |
二人以上 |
出資者 | 株主 |
社員 |
社員 |
社員 |
会社の代表 | 選択する |
選択する |
無限責任社員 |
社員全員 |
経営者 | 取締役 |
社員 |
社員 |
社員 |
意思の決定 | 株主 |
社員全員 |
社員全員 |
社員全員 |
会社の責任 | 限定的 |
限定的 |
無限責任社員 は限定なし |
限定なし |
手続きの面倒さ | 面倒 |
比較的ラク |
比較的ラク |
比較的ラク |
このように、様々な会社が存在しますが、どの種類の会社を作ればいいのかは事情によって異なります。また、会社とは呼びませんが、個人事業よりも信用の高いものに「NPO法人」や「社団法人」などもあります。
服部行政法務事務所では、これらの経験を豊富に持ち、知識、人的ネットワークを多く有しており、個人事業でやっていくべきか、会社やその他の法人、どの形態で活動するのが有利かなども含めてご相談に応じております。ミュージシャン・デザイナーとして、そして行政手続きの専門家として、納得のいくまでサポートさせて頂きます。