近頃は、漫画のアニメ化・実写化が顕著です。以前からも小説の映画化や過去の名曲をリバイバルさせることはよくありましたが、最近の場合は少し前に人気になったものが次々の他の著作物へとアレンジされていきます。
場合によってはメディアミックスとして当初から複数のコンテンツに展開させることを前提としているものさえあります。
このようなある著作物(原著作物)を、別の著作物にアレンジすることを法律上「二次的著作物」と呼んでいます。
当然に二次的著作物も、ひとつの著作物として法律上保護されます。
以下に大まかな二次的著作物の類型を挙げておきます。
翻訳 | 言語の著作物を別の言語で表現しなおすこと(コンピュータ言語は含まれない) |
【具体例】 外国語の小説を日本語にする、外国語の歌詞を日本語にする、外国語の映画に日本語字幕をつけるetc |
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編曲 | 音楽の著作物をアレンジして新たな創作性を加えること |
【具体例】 ポピュラーミュージックをジャズにアレンジする、複数の曲をリミックスして新たな楽曲にする (ただし、Cメジャーの曲をFメジャーに転調するとか、アドリブを楽譜にするなどはこれにあたらない) |
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変形 | 原著作物の表現形式を変えること |
【具体例】 写真をデジタル加工すること、漫画のキャラクターを立体化させること (これらは創作性を加えられている必要があります) |
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翻案 | 元のストーリーやモチーフの表現様式を変えること |
【具体例】 小説の内容に対し、映画化や演劇化のため演出を加える(脚色という)、小説や漫画を実写化する(映画化等という)、コンピュータプログラムを使い勝手を良くするため改造する(バージョンアップという) |
さきほども触れたように、原著作物をもとに創作した二次的著作物もひとつの著作物として保護されます。
しかし、ここに一つの問題が生まれます。新たに生まれた著作物が「二次的著作物なのか、アイデアのみをヒントとした原著作物とするべきなのか」トラブルとなることがあるのです。
特に翻案のケースでは、一般的に翻案は著作物の骨子を残して、表現を変更するという考え方が主でした。
もう少し、言い方を変えると、内面の様式は維持しつつ、外面の様式を変更するというものです。
しかし、場合によっては、アイディアを利用しただけの創作物と翻案された創作物との区別がつけられないのです。
説によっては、アイディアを利用するということこそが翻案ではないかと論じられたこともあります。
しかし、そもそも著作権法においては、アイデアを保護することを対象としていませんので、このあたりの区別は難しいとされます。
もう一つのケースでは、原著作権者から見れば、二次的著作物と考えるべきなのか、ただのパクリ(複製)とするべきなのか、判断がつきにくいことです。
例えば、以前コナミというゲーム会社が同社のゲームソフト「ラブプラス」という作品について、著作権侵害訴訟を起こしました。訴えられたのは「ラブプラス」の登場人物を用いた同人アニメ(無許諾二次創作アニメ)です。
大前提として、このような無許諾二次創作作品も、私的利用であれば、違法性を帯びませんので、考察する必要はありません。しかし、同人アニメや同人誌というものは販売されることが多いので、注意が必要です。
現段階では二次的著作物とするか、複製とするかについて、以下のような基準が考えられます。
Aパターン | 原著作物とまったく同一作品に見える → 複製権侵害 |
Bパターン | 原著作物に修正が加えられているが、創作性が見られない → 複製権侵害 |
Cパターン | 原著作物に創作的な修正が加えられているが、表現形式の本質的な特徴は維持されている → 同一性保持権侵害 |
Dパターン | 原著作物に創作的な修正が加えられており、表現形式の本質的な特徴も異なる → 独立した二次著作物 |
つまり、おおくの同人アニメや同人誌においては「表現形式の本質的な特徴」を楽しむものも多いため、Cパターンに該当するものが多いと言えます(もちろんDパターンのケースも、あるとは思います)。
これまで見たように、大丈夫と思っていても実際は著作権侵害の可能性はあります。
そこで、確実なのは原著作権の権利者(および著作者)に許諾を得ることです。
許諾を得ることができれば、概ね二次的著作物としての権利を保全する可能性は高まります。
また、二次的著作物としてでなくとも、「BGMとして利用したい」、「複製物として利用したい」といった一般的な利用についても、以下の流れを覚えておいてください。
ここでは音楽を利用する場合を例として説明します。
曲を利用したいと考えた場合、まずは原曲を製作した著作者の許諾を得る必要があります。
また、別に曲の権利者の許可を受ける必要があります。これらは両方、同一人物の場合もありますし、別の場合もあります。
別の場合、著作者が独自に持つ権利は「同一性保持権」、「氏名表示権」、「公表権」です。
中でも重要なのもとして、著作者には同一性保持権が保障されている。
これは、原作の著作者の意に反して、著作物を変更や改変を加えることができないというものです。
そのため、カバー曲をライブで演奏する場合など、原曲(オリジナル曲)を製作した著作者の許諾をも得る必要があります。
原著作者の許諾が得れた場合でも、曲の権利者が別に設定されている場合があります。
この場合、原曲の編曲権がJASRAC(日本音楽著作権協会)などの著作権管理事業者で管理されているものならば、使用料を支払えば問題ありません。
つまり、何はともあれ、利用したい曲について、登録状況をJASRACで調べ、事前に権利関係の問題がないことを確認することになります(デジタルなどの場合は、事後でも構いません)。
もし、海外などで管理されている曲の場合は複雑です。
アメリカ以外の主要先進国においては、デジタル販売サービスが使用料を払う仕組みですが、日本の曲の使用料を払っているかどうかは、別に確認する必要があります。そして、デジタル販売サービスが使用料を支払っていない場合、曲の権利者に直接コンタクトを取るしかありません。
なお、この曲の権利者に直接コンタクトを取るのは、アメリカの場合、ほとんどすべての曲が該当します。
順序としては「@曲の権利者を特定する、A曲の権利者とロイヤリティや利用態様などを交渉、B曲の権利者に直接著作権使用料明細(報告書)、とあわせてロイヤリティを支払う」という風になります。
万が一、曲の権利者が判明しない場合は、著作権局という所に、理由書を添えて、規定の出願料を収める方法(供託)があります。これは日本の場合も同様で、文化庁の裁定を受けて、供託できます。
なお、演奏者やレコード製作者の権利(著作隣接権)が気になるところですが、カバーなどをする場合は、不要です。
逆に元の音源を利用する場合、同じように直接コンタクトを取り許諾を得る必要がある場合もあります。
服部行政法務事務所では、著作権に関する権利処理の実務経験を豊富に持ち、知識、人的ネットワークを多く有しております。
作品の利用について、まずはお気軽にご相談ください。ミュージシャン・デザイナーとして、そして行政手続きの専門家として、納得のいくまでサポートさせて頂きます。