特上カバチ!!第8話「決断!!事務所を去る日」

 特上カバチ!!第8話のあらすじについてはTBS公式サイトで、ご確認ください。

特上カバチ!!行政書士から見たレビュー

 意外な展開です。田村くん事務所を辞めてしまうのですね・・・。 今回、冒頭シーンで仕事をバリバリこなす田村くんの日常が描かれていた(しかも、ちゃんとした行政書士業務が8話にしてやっと描かれた)のですが、これが彼の補助者死亡フラグだったとは・・・。

 セクハラの相談・・・。内容証明を会社や相手方に送りつけるとか、告訴するなどを前提としていればキッチリ業務として相談にのれるのですが、男性行政書士としては難しいものがあります。これは性犯罪被害者でも同様で、女性が男性行政書士に話すのは非常に辛いこととなると思われます。
 当事務所では提携のカウンセラーさんをご紹介などもしており、心理面のサポートも行っておりますが、法的な事実関係についてはどうしても僕が聞かなくてはならないので、難しい問題です。

 小津小百合さんは当初、元彼の江口が社内でプライベートな話をバラし、しかもデートに使った50万円の返還を要求されていることを相談。しかも会社の行政書士(というより社会保険労務士)に1時間後に会う約束になっていたのですね。
 行政書士の業務としては、事態が切迫していたわけで、無料相談の延長で同行したのは止むを得ないかもしれませんね。本人からのみの事情聴取のみより、相手方の主張も聞いておくほうが、事実関係の把握に役立ちますし・・・。

 しかし、ここで痛恨のミス。
 相手は田村くんの知り合いの村田先生で、小百合さんが勤める雨雲商会の顧問をしている模様。 両者、依頼者の目の前でフランクに会話するのは最悪ですね(裁判における弁護士さんも、こういう感じのケースが結構あるようですが・・)。
 しかも田村くん、村田先生を信用しきっており、「相手が村田先生だから安心ですよ」と村田の出す示談書に簡単にサインをさせてしまいました。(後で分かることですが、単に受験生時代の知り合い程度のようで、何を根拠に信頼していたのかハッキリしません)

 当然、住吉さんは激怒!!
 その後も江口の噂話は止まるわけもなく、小百合さんが住吉さんに泣きながら電話をしてきたということです。(ならば、はじめから住吉さんに電話で相談しておけば良かったような・・)。
 田村くんの考えは「2人の問題に止まる」。住吉さんは「人権の中でも自己決定権を持ち出し、セクハラは被害者の主観で決まり、被害者がセクハラと言えばセクハラ、冗談と言えば冗談になる」と主張。
 「セクハラ問題は、女性の自己決定権が尊重されるべきで、セクハラはされたコトより、された人」と話します。

 セクハラについての考えとしては確かに、憲法13条の幸福追求権や人格権を重視するもので、判断基準はあくまで「被害者の主観」です。これは現在の法解釈上、まったく正当なものとなっております。

男女雇用機会均等法21条
「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する女性労働者の対応により当該女性労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう雇用管理上必要な配慮をしなければならない。」

 後半部「性的な言動により・・女性労働者の就業環境が害されることのないよう」
 これがこの考えの法規定上の根拠です。尚、後に村田がこの条文の抜け穴(基準が明確でない)を利用し、表面的な措置(配慮)のみを行って、本条文をクリアします。

 このセクハラ問題ですが、男女雇用機会均等法21条に罰則などはありませんが、江口にどんな責任がふりかかるかといえば・・・
 まず、民事責任として、不法行為に基づく損害賠償責任が発生します。ちなみに民事上の請求でしたら他に差し止め請求をすることも可能です。
 そして刑事責任として、傷害罪、名誉毀損罪、侮辱罪などが科されるおそれもあります。さらに、恋愛感情などが絡む場合ですと、「ストーカー行為等の規制などに関する法律」を適用することもできるでしょう。

 では、雨雲商会はどうでしょう?
 ドラマ内にも登場しましたが、民法715条の使用者責任が追及され、さらには労働安全衛生法71条の2から導かれる職場環境配慮義務違反に問われる可能性もゼロではないでしょう。こうなれば、社会保険労務士の村田先生の立場は地に落ちます。

 ただし、これらは実務上でいうと相当被害者の女性に負担がかかります。
 セクハラはさきほども言ったように判断基準が「被害者の主観」となるために民事上では裁判所が、刑事上では警察署が、きちんと事実関係を認定するまでにかなり詳細に事実を口述しなければならないからです(田村くんにもきちんと事実を告げられなかった小百合さんにはかなり辛い裁判となります)。
 それは法律解釈で判断基準が「被害者の主観」だからといって、住吉先生の例え話のように、なんでもかんでも被害者の主張どおりになるとすれば、言ったもん勝ちの恐ろしい世の中になるからでして・・・。
 それを抑止する意味も含めて、法律の力で人に規制をする場合は、相当厳しい事実認定を裁判所が行うわけです。
 注意しなければならないのは、セクハラというのは本当に辛い目にあっている人が、勇気を振り絞って国家機関や法律に助けを求めるものであり、安易に持ち出すものではありません。(またセクハラは女性だけの特権ではなく、男性も被害者になりえますし、筆者が今まで見たものでは男性側は萎縮してセクハラしないよう注意しているにも関わらず、女性側が明らかな逆セクハラを行っているケースがけっこうありました)。

 その点、本ドラマの場合の江口は相当悪質で、まったく他人を尊重しない人間ですから、然るべき報いを与えるべきなのですが、事実関係をきちんと主張するのは本当に厳しいです。

 さて、ドラマでも住吉さんが小百合の再依頼を受け、田村の使用者責任を問い大野事務所と加害者の江口に慰謝料請求します。
 しかし江口も村田も示談書を取っていることを盾に、交渉に応じません。さらに小百合さんが傷害事件を起こしてしまいますます、不利な状況に・・。
 この状況を打開するために、田村くんは風評を利用することにします。
 つまり、江口個人を民事と刑事両方で告訴することで、雨雲商会の評判が悪くなるぞ!と脅しをかけるわけですね。

 田村くんの要求は「傷害の被害届け撤回」「セクハラを認めて謝罪」「デート代請求の撤回」「以後の噂話の差止め請求」です。
 おまけに雨雲商会が江口をかばえば、雨雲商会を訴えるとまで言います(根拠はきっと労働安全衛生法71条の2でおそらく勝ち負け云々よりも会社の評判を落とすのが目的?)。

 村田は「江口さん、あなたの負けです」と示談をまとめるよう言いました。
 江口がどうなろうと自業自得ですが、雨雲商会が「江口が示談に応じず告訴されれば、懲戒解雇にする」と言いましたが、これは結構勝手な主張ですね。そもそも、雨雲商会がセクハラ防止措置をせずに被害が拡大したわけですから・・・。
 江口はダメ元で労働基準監督署に駆け込むかもしれません(一見、居直り強盗のようですが、セクハラと江口の雇用関係の話は一応別物)。そうなればやはり、社会保険労務士の村田の立場は地に落ちます(涙)。

 余談ですが、原作では村田先生の役回りは金田先生じゃないんでしょうかねえ。名前を変える意図はなんだったんでしょうか。ひょっとして今後、やり手の元上司として金田先生が出てくるのか、原作同様、大野を怯える田村くんが金田先生の事務所に駆け込むのか?
 ちょっと次週以降の展開が気になるところですね・・。

 尚、江口が「あんた、うちの行政書士でしょ?」と言いましたが、「うちの(雇用関係の顧問)」というのなら「うちの社会保険労務士でしょ?」が正解です。
 ドラマ内はちょっと行政書士の業務に誤解与える言動が目立ちますね・・・。
 行政書士が企業顧問につく場合はあくまで「行政法務顧問(事業経営や許認可等)」がメインとなります。(もちろん厳密に言えば社会保険労務士業務のコンサル規定に法規制がありませんので、行政書士・司法書士や税理士が行っても問題はありません)

 さて、事務所を辞めた田村くん、これからどうなるのか?
 予告では調理のバイトをしているように見えましたが、ひょっとして良純さんの「キッチン・ミヤシタ?(笑)」
 いずれにしても、頑張って欲しいです。それと関係ありませんが、TBSのあらすじの江口の写真、選択ミスちゃいますか? 性格悪すぎる写真のような気が・・。金子賢さんて前作「カバチタレ!」でも長髪で性格悪いセクハラ野郎の役でしたよね。なんで、そんな役ばっかり・・・。(;_;)

ページトップへ
京都府京都市中京区御幸町通蛸薬師下ル 船屋町367 ロイヤルプラザ御幸町5階   Copyright (C) 2009 Hattori Administrative Legal Office All Rights Reserved.