特上カバチ!!第7話「家族の絆を取り戻せ」

 特上カバチ!!第7話のあらすじについてはTBS公式サイトで、ご確認ください。

特上カバチ!!行政書士から見たレビュー

 ここに来て、ようやく住吉さんが非弁スレスレだったことと、ドラマ内で重森さんが行政書士としてのスタンスをやけに強調していた伏線の意味がはっきりしてきました。
 まず、今回も正当な業務ではありません。田村くんの前の仕事場の先輩山田さんが家賃を一日滞納したことで部屋の鍵が替えられ部屋に入れないというシンプルながら非常にやっかいな案件です。
 不動産屋は「家賃の他に鍵の取り替え代金と違約金払わないと新しい鍵は渡せない」という主張。

 無報酬のボランティアですし、もうかれこれ7話も同じようなことを書いていますので、解説不要だと思いますが、このように当事者間で法律的意見の対立がある、いわゆる法律紛争性ある案件の場合はたとえ書類作成のみであっても、行政書士が関与することは許されません。
 今回は田村くんの元先輩で、しかも相手が過去に住吉さんと因縁のあった瀬古井(2年前に住吉が廃業に追い込んだ悪徳サラ金屋)だったこともあり、無報酬で依頼を受けているのですね。
 もちろん、このように知人が困っている場合にボランティアで相談を受けたり、相手に意見を言いにいくのは問題ありませんね。
 ちなみに行政書士が無報酬でもできないのは裁判くらいでしょうか・・(後に住吉さんが悩んでます)。

 さて、今回のポイントは「鍵の賃貸借契約」であって、建物は鍵のオマケでついてきているに過ぎないということです。

 当初、住吉さんが主張したのは建物や土地の賃貸借契約の場合、借地借家法30条「この節(建物賃貸借契約)の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。」というものでした。 一応詳しく解説しておきますと

 契約とは通常、当事者間の「意思の合意」でいかなる内容にもすることができます(契約自由の原則)。
 ここが契約書や協議書作成を業として行政書士が関与できる理由です(弁護士は当事者の一方の代理人となるが、行政書士はなれないため、逆に両者の意思や合意をくみ取り書面にするのが職務)。
 ただし、当事者の意思の合意さえあれば本当に「なんでも契約できる」とすれば、社会的に問題がある場合もあります。例えば男性と女性の間に交わす売春契約などは公序良俗に反し、無効となります(民法90条)。
 このような当事者の自由意思の契約を法律の規定で禁止する内容を「強行規定」というのですが、借地借家法30条も民法の原則である契約自由の原則に制限をかける強行規定で、立場的に弱くなりがちな借主を保護するために必要なものなわけですね。

 話を戻しますと、今回は土地建物の賃貸ではなく「鍵の賃貸借契約」として契約書が交わされていましたので、民法の原則「契約自由の原則」に戻るために、瀬古井の主張通り契約書に書いてあることが有効となります。

 その後、検備沢弁護士の協力を得て瀬古井を骨董品43万3000円分の不法行為加害者とし損害賠償請求をすることに成功しましたが、瀬古井は追い出し屋(家賃保証業者)と連絡をとり、悪質な取り立て行為へとエスカレートします。

 このような悪質な取立ては貸金の回収においては規制されていますが(貸金業法21条1項「取り立て行為の規制」)、貸金業者ではない、家賃保証業者には適用することができないのですね(栄田が解説していたのはこういう意味です)。

 ここまで来て、何か良い方法はないか検備沢弁護士に知恵を借りに行きますが、「法で人を救いたければ、弁護士になるしかない」と言われてしまいます。

 個人的な事を書きますと、これは実務上常に思うことです。
 例えば、詐欺の案件で被害額が5万円の場合、我々行政書士が内容証明などを通して主張し、解決することもよくありますが、相手方がこれに応じないとか、住所不明だとかの場合、どうしても警察の力や弁護士さんの力を借りる必要があります(警察はいわずもがなですが、弁護士も個人情報開示請求ができます)。
 警察の場合は完全に行政庁ですので、我々がお役に立てることが可能ですが、弁護士さんに引き継ぐ場合5万円の被害に対して数千円、数万円で受けてくれることはなかなかありません。
 ここで5万以上の報酬を支払えば、泣き寝入りしたほうがマシと判断する人が多いですし、他に離婚の案件で「離婚協議に応じれば50万円の慰謝料、応じなければ裁判でも調停でもしろ」と相手方が思っている場合に弁護士さんに依頼すれば(相場で)着手金20〜30万。成功報酬2割くらいとなり、慰謝料が100万程度しか取れないケースではハナから協議にしておく方が良いわけです。

 ですので我々、行政書士が行っている離婚相談業務というのは調停や裁判を有利に進めるアドバイスではなく、協議でやる方が有利か、司法書士に書面だけ依頼すべきか、弁護士に代理人を頼むべきか、あるいはある程度素養のある依頼者なら自身で書類作成から出頭までやるべきか、などを話しながら判断してアドバイスするのですね。
 もちろん協議の場合はお手伝いできますが、それ以外の場合で資金難の方ですと非常に困ります。 弁護士さんに依頼できないけど、泣き寝入りするのは酷。
 特に途中まで協議で進んでいて、急に相手方が反意を示すケース(感情的な嫌がらせでする方が多いです)では、いろいろと事情を聞いているだけに、今回の住吉さんのように「自分が弁護士なら無料でやってあげるのに・・」と悩んだりもします。

 また話が脱線しましたね。結局この「弁護士ならできる」という発想から田村くんが弁護士法72条違反で相手を攻めることを思いつきます。

 弁護士法72条は弁護士以外のものが、報酬を得る目的で、て法律事務を業とすることが他の法律に定める場合を除いて禁止されているもので、行政書士や司法書士など隣接法律職はこの「他の法律に定める場合」にあたるので、一部法律事務を行えるわけですが、行政書士は紛争性ある法律事件は扱えず、瀬古井のような不動産屋の場合は、賃借り人を追い出したり、家賃を取り立てたりする行為が宅地建物取引業法などに定めのない業務となりますので「弁護士以外の者が報酬を得ることを目的に行った法律事務」に当たって弁護士法違反となるわけです(広島高判平4年3月6日)。

 では、田村君や住吉さん。あなたたちはどうなのさ!?
 というツッコミが出るのはごもっともなんですが、今回彼らは友人を救うためのボランティアなのでオッケーということなんですね(あとで100万を渡そうとする山田に住吉が「1円でももらえません」と断ったのはそういうことです)。

 ただし、毎度僕が指摘してますように告訴をちらつかせて100万の慰謝料を請求する行為は弁護士法72条違反ではないまでも、恐喝などにあたる可能性があるので、要注意ですよ。

 今回は行政書士の肝に関わる話だったので、かなり長くなっちゃいましたね・・。
 ここまでで7回解説してきてますが、いかがでしょうか?
 行政書士は隣接法律職として決して万能な存在ではありませんが、行政書士なりにいろいろと皆さんのお役に立てるように試行錯誤しております。
 特に僕自身は今回触れたような「一方当事者の代理人となれない」ことがポイントだと思っておりますので「特上カバチ!!」のような、相手をやり込める案件ではなく、平和的な解決を求める案件(当事者の合意が確認できるものの、その内容について不明点が多いケース)でのお悩みは特にご相談いただければと思っております。

 尚、ドラマ内で住吉さんが「弁護士でない」ことを基準に悩んでいますが、別に弁護士さんが低価格で必ずしも弱者救済をしないわけではありません。
 実際「人権派弁護士」といわれる人々は、住吉さんや田村くんのような性格で、かつ弁護士ですから、本当に多くの困った人々を救っています(人権派という括りにするのは不適切かもしれませんが・・)。
 「特上カバチ!!」ではこの点が誤解を与えかねないので、書いておきますね。
 ただ、士業も職業ですからこのようなケースはなかなか少ないのです。弁護士さんは会費も行政書士より高額で、事務所も行政書士よりもきちんとした建物に入っており、パラリーガルという事務職員もたくさん抱えているケースが多いので、弱者救済を無報酬や低価格で行うのはある程度限界があるのです。 ですから、行政書士が必ずしも正義で、弁護士がそうでないわけではなく

行政書士の中にも「利益重視で商売している人がいれば、弱者救済をしている人もいる」
弁護士の中にも「弱者救済をしている人もいれば、会費や経営の問題でなかなかやりづらい」
という実情があるのだということです。

 ここらへんはドラマ「最後の弁護人」なんかを見てもらえば、よくわかるかもしれません。
 ちなみに弁護士ドラマ繋がりで「特上カバチ!!」の田村くんを弁護士(見習い)に置き換えたような設定が、ビギナーというドラマのオダギリジョー演じる羽佐間くんだと思います。
 僕はこのドラマが好きで、今でも見ると「ロースクール行ってみようか」なんて思う時がありますが、お金と時間によっぽど余裕ができない限り、実行することはないと思います。
 低価格でサービスも提供できなくなりますしね(笑)

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